もし もの話                  (戦場の二人に30のお題)

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雪が降っている。
ただでさえ低い気温がさらに下がり、指先と耳の感覚が麻痺したように鈍くなる。
足元は白く、歩くたびに雪が軋んで音を立てる。
はっきりいって歩きにくい。
まったく、いい迷惑だ。

微妙に膨らんだ雪山に近付き、横に座る。
身体半分雪に埋もれたまま、忍者が口を開いた。

「死にそうだわや」
「はっきり言いなはれ」
「死ぬ」
「そうどすか」

埋もれた身体は、やけに小さい。
両腕と両足の付け根の部分が、赤く染まっている。
そのさきの雪は、平面だ。

昔師匠に聞いた、達磨の話を思い出した。



じっと見ていると、達磨が口を開く。

「何笑っとるんだらぁか」
「うれしいからどす」
「ならなして涙を流しんさる」
「これは嬉し涙どすえ」


雪はどんどん降り積もり、自分の足も埋もれてきた。
忍者はだんだんと小さくなり、赤い雪も白くなる。
手足の感覚は既に無く、顔の表面もぴりぴり痛い。
忍者から流れる血も、自分が流す涙も、白い雪に凍り付く。

「ずぅっと、目障りだったんや」
「そげだらぁか」

「あんさんもそうでっしゃろ」
「そげだらぁね」

「お互い様や」
「だっちゃ」


雪は音もなく降り積もる。




忍者がどんどん消えていく。








「もしも、もしもどすえ…」
「うん?」



「もしも、わてが淋しい言うたら、どないします?」

忍者は遠くを見つめて黙り込む。


「なぁ、どないしますんや?」

「どがしょ…って、困る・っちゃね」

視線を戻し、眉を歪めてへにゃりと笑う。
まるで、あの東北人の、どうしようもない我儘を聞いた時のよう。







「安心しなはれ」

忍者が視線で問い掛ける。


ずっと、視界の中にいた。
影のように。
鏡のように。
同体のように。
傍らで、己を、己の汚さを、見せ付けていた。
相手の存在を意識するたび、自分自身を見せ付けられて。
込み上げる吐き気と、沸き上がる嫌悪感と、戦った。






「あんさんがおらんようになったら…」


吐き気を堪える必要も

嫌悪感を抑える必要も

すべてが消えて無くなるのだから



「わては、幸せや」


「ん」



「幸せすぎて、涙がでるわ」






















「あんさん、何笑ってますんや」



















「…この、阿呆」





















何も、感じなくなるのだから


「…嬉しいはずや」


涙が出るのは、うれしいからだ。


「幸せなはずなんやっ」








真っ白な視界が、滲んで歪む。













雪は、いつのまにか止んでいた。




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戦場お題ふたつめ。…ふたつめにしていきなりコレか!!!
季節外れもはなはだしいですね!確か冷房の効きすぎた電車内で考えた物です。
アラシヤマが言ってる‘達磨’とは、ちょっと前(?)に広まった怖い話で、まぁ簡単に説明すると両手両足切り取られた人間のことです。
付け根からないもんだから胴体だけコロンとしてて達磨みたいですよっていう。
バックの壁紙に血飛沫でも飛ばそうかとも思ったんですが、雪ならやっぱ白一色だろう!と思い。手抜きじゃないですよ!!!

えーと…どこから謝ればいいんだか。土下座します。