空き家となった家の上、ひとり立ったまま空をみる。


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  紙飛行機  (戦場の二人 に30のお題)

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透明感のある青が、東からだんだん濃くなっていく。
西の空は薄い橙、黄、霞むような緑のかかった白と青のグラデーションだ。
南の雲が紫に染まっている。

迎えが来るのは真夜中か。

じわじわと闇の支配が広がる空。
藍色の中にぽかりと浮かぶ白い月。

なんとなく。
ただ、なんとなくだが、その月に向けて炎を飛ばしてみたくなった。
蝶の姿を思い描きながら指先に神経を集中させる。
舞うように燃え立つ炎を体から切り離す。
火炎蝶を空へと向けて。

舞い上がる蝶から目を逸らし、野営地へ戻ろうと足を踏み出したとき、じゅ・と微かな音がした。
続けて空から何かの落ちる気配。
紙が焦げ付く匂いと共に、忍者の声が闇へと響く。
「あーあ。もったいないっちゃね」
「…あんさん一体何してますの」
そちらを見れば先程放った火炎蝶。
炎は何かを巻き込みながら音もなく小さくなっていく。
忍者は足元のそれを眺めながら、微塵も気配を感じさせずに隣の屋根に立っていた。

「紙飛行機を、飛ばしてたんだっちゃ…」
見ると、忍者の手には大量の赤い折り紙が握られていた。


足下の炎は最後の光をだして燃えつきた。
忍者は焼け焦げた飛行機の亡骸に手を伸ばし、くしゃりとつぶして空へと散らす。
「トットリ忍法目潰しの術」
…モロにくらった。
どうやら自分のいた場所は風下だったらしい。
そこまで計算してやったのか。
「何するんや阿呆忍者!」
「煩いっちゃこん根暗。紙飛行機の仇だわいや」
言いながら忍者は紙を一枚折りはじめる。
新たな飛行機を作る気なのか、立ったまま器用に手だけを動かす・が、しかし
「それ折り方間違うとるんとちゃいます?」
「僕ぁ折り紙なんてよう知らんけ」
無駄に複雑に折られる紙は、みるみるうちに小さくなって
結局、その紙は横に長い間抜けな飛行機へと形を変えた。
「重心が真ん中にきてますえ?普通は紙の先の方でっしゃろ」
「そうなんだらぁか?そういえば子供が持ってるのとかは先が尖ってるっちゃね」
忍者は言いながらもそのまま飛行機を飛ばす。
造り主の手を離れたそれは、一回・二回・三回と、不可解な回転をしながら上昇し、空の月へと重なった。
夜空に浮かぶ白い月。
まわりに広がる濃紺が、光に照らされてなお一層暗く見える。
赤い紙飛行機がふわりと横切るのを眺め、
まるで、
あの男の隣に立つこの忍者のようだと思った。

「この折り紙なぁ、ここの家の子が持ってたんだっちゃ」
足で屋根を叩きながらそう言って、また折り紙を折りはじめる。
「赤いのばっかり、よっぽど好きだったんだらぁね」
ひとつ、ふたつ、みっつ、次々と出来上がるいびつな飛行機。
ひゅい、と飛ばしてため息を吐いた。
「そいで、そん横に紙飛行機があったんだっちゃ」

「その子の供養のつもりかなにかで、こうしてわざわざ飛ばしとるんどすか?」
「やっぱり普通は、そう、思うんだらぁか?」
忍者は首を傾げて逆に尋ねてくる。
そしてそのまま、へにゃりと笑みを浮かべた。
「僕ぁ、こげなことしてみても、なぁんも感慨わかないんだっちゃ」


「今日も月は綺麗だっちゃねー」
それは、この月のことを言っているのか
それともあの男のことか。
「まわりが綺麗な黒やから、よけいそう感じるんでっしゃろ」


空き家となった家の上、ふたり立ったまま空をみる

空は全面月の光を浴びる透き通った黒。




空気が震え、飛行船の音が響く。



そろそろ迎えが来るころだ。









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戦場のお題 みっつめ。
絵を描くより文を書くほうが労力がかかると思い始めた今日この頃です。
しかもだんだん戦場っていうか戦闘その後みたいなネタになっていく…軌道修正しなきゃならんっすねー。

しかし思ったんですがウチのサイトって心底ミヤ←トリ前提アラ→トリですねー。
しかもアラシヤマの純愛臭い。うぅー臭いよう。
書いてる本人はシン←ミヤ←トリ←コジでもってマジ←シン→(?)←アラを前提としたアラトリが好きなんですが。(うっわグチャドロ…

まぁ良いか………良いのか?


あ、トトリが作ってたまぬけな紙飛行機は普通に作れます。
折り方面倒だけどその分だけ縦回転も横回転もありのアクロバティック(?)な動きをしてくれる摩訶不思議な紙飛行機。