「どうしたガルデン、酷い顔してるぜ?」
「…お前のせいだ、サルトビ」
目の前で親を殺し、村を焼いた私に何故、静かな笑みを見せるのか。
最終的には共に力を合わせ戦ったとはいえ、あれほどまでに怒りを秘めた眼差しを向けていたくせに。
仰向けに寝転がり、自分を見上げる姿に、ガルデンは苦い顔をした。
サルトビが復讐を止めたとみて、アデューは素直に喜んでいだ。
罪を犯したのなら、生きてそれを償ってくれと、サルトビはそのチャンスを与えてくれたのだと。
他のものは安堵の表情を浮かべていた。
ガルデンが殺されずに済んだことにか、サルトビがこれ以上辛い思いをしなくて済むことに対してか。
ガルデンはおそらく後者の割合が強いと思っている。
見た目以上に情に熱い年若い少年が、仇とはいえ一度は行動を共にした者を殺すことになにも感じないわけがない。
それが、たとえあれほどの憎悪をぶつけていた自分が相手であってもだ。
これはきっとうぬぼれではない。サルトビは、忍びには致命的と言えるほど、優しすぎる。
それが、何故、こんなにも不安に感じるのか。
あれほどの強い感情をぶつけてきたのは、サルトビが初めてだった。
今まで自分が犯してきたすべての罪状を叩きつけるかのような、焼けつくほどの視線。
背筋に走ったのは悪寒かそれとも快感か。
もう命を狙わないと宣言され、戸惑った。
もうサルトビは私を追いかけないのか。あれほどの強い感情はどこへ向かうのか。
「お前は、もう私を憎んではいないのか?」
「何言ってやがる、憎んでるに決まってんだろ」
穏やかに微笑むサルトビの眼差しに、かつてと同じほどに強い憎悪をみて、ガルデンは安堵した。
* * *
ガルデンが寝言で母を呼んだ時、もう駄目だと思った。
自分が甘いのは自分で重々承知している。それが忍びに致命的であることも。
ずるい奴だと思った。
俺から母親も父親も奪い、そのくせ自分は母親を求めている。
十になる前に親を殺され、仇を討とうと心に決めてそれだけの年月がたった。
物心ついてから親と過ごした、覚えているだけの時間と同じ程の年月を、復讐の旅に費やした。
父親の姿も、母親の笑顔も、思いだそうとしても頭に浮かぶのはその最後ばかりだ。
こっちはもう、安らかな顔を思い出すことさえ難しいというのに。
不安げに覗き込むガルデンを見上げて、サルトビはぼんやりと考える。
そのさみしげな姿が癇に障った。
己の罪を自覚して、もっと苦しめばいいと思った。
存外抜けてる癖にその自覚がないのを見て、手のかかるやつだと思った。
母親を求める姿を見て、同じだと思ってしまった。
もうガルデンを殺せない自分が居るのを、自覚してしまった。
恨みや憎しみが消えたわけではない。
恨みも憎しみもそのままに、しかし行動を共にしたことで情が移ってしまった。
殺したい、殺したくない。
相反する気持ちが同じだけサルトビの中にある。
「お前は、もう私を憎んではいないのか?」
「何言ってやがる、憎んでるに決まってんだろ」
なにをいまさら、と笑って返せば安堵したように微笑むガルデンを見て、更に笑みを深くする。
さるとび、と呟きながら手を伸ばすガルデンを、上半身を起こして抱きしめながら、考える。
ガルデンの“大切なサルトビ”を、目の前で殺すには、どのようにするのが一番だろうかと。
* * *
BGM: 谷山浩子 仇
この歌初めて聞いたとき「サルトビだああああああああ!!!!!」と思った、ので!
めっちゃガルサル!もうそれにしか思えん!!病んでるけど!!!