なんてことない日常  (ごえ→ひよ?)

            (日吉が改名してっから多分松下さん家から帰った後。)







蕎麦を食ってたら通りの向こうを籐吉郎が走ってくるのが見えた。

両手に大事そうに何かを持っている。大方あのうつけの着物か何かだ。
どんどん近づいてくる が、あっちは気が付いてないんだろう、そのまま通り過ぎて行っちまいそうだ。
別に放っておいても構わないんだが、なんとなく急いで蕎麦を掻っ込んだ。
「おーい!とーきちろー!!」
「あ、五右衛門!!」
きょろきょろと辺りを見回した後、ぱっと顔を明るくさせて近づいてくる。
警戒心の欠けらもない人懐っこい笑顔。
忍相手にそれもどーよ。甘いったらありゃし ねえ。…って、んなこたあえて言いやしないけど。


当然のように二人で並んで歩きだす。
俺は歩き。だけど籐吉郎はさっきまでと同じ小走り。ま、足の長さと鍛練の差があるからな。
本当はもっとゆっくり歩きな がら金目の情報とか聞き出せりゃあ一石二鳥なんだけど、籐吉郎ってばお仕事中だから。
「忙しそーじゃん、草履取り」
「まぁねー。でも、殿の近くには居れてるんだもん。これからだ!」
「お、その意気その意気♪ ばりばり出世して今までのツケ 払ってくれよー」
「うっ…うん勿論!」
とか言ってるわりに、なんか顔が青いんだけど?
まぁ俺ってばお高いから、本当に払いきれるかどうか不安なんだろう。真っ正直なコイツのことだ、踏み倒そう なんて微塵も考えてねーに違いない。
「籐吉郎はいい子だねー」
「…なにそれ」
馬鹿にされたと思ったんだろう、半眼になって聞いてくる姿に苦笑する。
「何って、褒めてんの」
「本当に?」
「本当にー。いやマジだって」
「怪しいっ」
もうおまえ楽しすぎ(笑) 普段警戒心ゆるゆるなくせして、こんなとこで怪しんでどーすんだっつーの。こーゆー人種っていまどき貴重だよなー。
「籐吉郎、信じてくんねぇの?」
「えっ!?そ、そんなことないよっ!」
「や、いーよ無理しねぇで。俺所詮忍者だし。しかも抜け忍だから伊賀にも疎まれてる し。そのうえ武田にも睨まれてるし」
「わーっ!?ちょ、五右衛門!?本気でへこんでるっ!?なんでーっ!!?」
ちっとばかしいじけたふりしてみせれば、こっちが狙った以上に慌ててくれる。
だらだら汗流して、目からありえねぇくらい涙飛ばして。
なんか、すげぇ楽しいんだけど (笑)

笑みを噛み殺しながら顔を伏せてみる。
俺の髪はこんなんだから、背の低い籐吉郎からでも表情とかは見えにくいハズだ。
−と、急に手を捕まれた。

「へ?」
「ごっ五右衛門!」
真面目な声に思わず視線を戻す。
あ、顔も真面目だ。
普段はぬけてんのに、たまにすげぇんだよなーコイツ。意外性がまたいいっつーか、見てて飽きねぇっつー か。
「俺はっ、五右衛門のこと信じてるから!」
「え?」
「武田の忍に追われたときも、加江様のとこでも助けてくれただろ?」
「ああ」
「俺は、さ。それまで、自分で考えた策とか、信用して貰ったこと、無かったし。すごく嬉しかったから」


「五右衛門のこと、信じてるよ」


「五右衛門?」
「へっ!?ああ、うん、」
「どうかしたの?顔変だよ」
「…自分じゃ結構イケてる方だと思ってんだけど」
「そーじゃなくて」
 
…えっと、思わず思考が停止するくらい嬉しかったんだけど。

こんなちびガキ相手に、なんでだよ。
なんか顔の筋肉がゆるむのがわかる。今絶対顔赤いし。


おいおい俺、これ、ちょっとヤバい、んじゃねえの?
片手で口元を隠しながら視線をそらせる俺に、籐吉郎が怪訝な顔をする。
「どうかした?」
「や、何でもねぇ。ありがとさん」
「うん?どういたしまして…て、あ!時間がっ!殿にしばかれる!」
そういえば、いつの間にか立ち止まって話し込んでいたらしい。
籐吉郎は顔を青くして泣きが入っている。
「あー、んじゃ運んであげよっか?」
なんかよく分かんねぇけど気分がいいから、ひとっ働きしてやろうじゃねぇの。
本当、珍しいんだぜ?俺がこんな気持ちになるの。
「へっ?…うわぁっ!」
いきなり籐吉郎を横抱きにすれば、慌ててしがみついてくる。子供体温なのかな?ほくほくしてあったかい。んん、役得役得vV
あのうつけの荷物もしっかり抱えてるあたりがひっかかるけど、こればかりは 仕方ないか。
「超特急いっきまーす♪ 落ちんなよ、籐吉郎」
「えっ、ちょ、うわぁああっ!!?」
恥ずかしさよりも恐怖心が先に立ったようで、必死にしがみついてくる仕草が本気で可愛らしい。
落ちるなって言っといても、落っことす気なんか毛頭無いんだ けど。

なんだろうね、この気持ちは。
大名相手に大金せしめて生きてきた俺が、こーんなちびっ子相手に只働きなんて。

でも。
そういえば、俺も人から信じてもらったのって初めてかもしんない、とか思って、ちぃっとだけ、幸せな気分になった。







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なんかパプワのファイルのすみっこに発見した文章。
…多分2年くらい前に書いた…のかな?