ここ数日、タソガレドキ忍者隊の雰囲気が悪い。
と、いうか、高坂陣内左衛門と諸泉尊奈門の仲がギクシャクしている。
他の仲間は2人を遠巻きにしている、といったところだ。
タソガレドキ忍者隊小頭、山本陣内は、人知れずため息をついた。

 事の起こりは数日前、ちょっとした忍務に2人を行かせた折、尊奈門の失敗で仕事がしづらくなったのだという。
忍務はこなして帰ったものの、2人はやけにくたびれた様子であった。
それをきっかけに、その他諸々の不満が飛び出して、高坂が諸泉を怒鳴り付けたのである。
諸泉は自分に非があることもあって、平謝りに謝ったのだが、その時は高坂の怒りはおさまらなかったらしい。

  (もういい加減、高坂の頭も冷えている頃だろうが…)
 今日も今日とて、ぶっきらぼうに諸泉に指示を出す高坂と、おどおどと指示に従う諸泉の姿が目に入る。
諸泉が若干元気がないのは当たり前として、高坂までどこか覇気がないのは、諸泉に言い過ぎたと後悔している証拠だろう。
 (さっさと謝ればよいだろうに…)
 端から見ていると、高坂が謝る機会を逃し、今さらどう切り出せば良いのかわからなくなっているのがよくわかる。
まるで思春期の子供のようだと呆れつつ、忍術学園の先生はしょっちゅうこのような光景を見ているのだろうかなどと、山本が現実逃避に入りかけたとき、高坂 が諸泉に怒鳴り付ける原因ともなった、その他諸々の不満の元凶があらわれた。
 「陣内、だいぶお疲れのようだねえ」
 「ええまぁ。こんな職場でこんなことに頭を悩ませるとは思いもしませんでしたから」
 「よし、じゃぁ気晴らしに行こうか」
 「は?」

 「忍術学園の文化祭、四名様ごあんな〜い♪」



  (なんでこんなことに…)
 目の前で部下が2人、呆然としている。手には、今しがた山本が渡した前掛け。
トイレットペーパーの絵がついた、忍術学園保健委員会特製、幸運食堂の制服である。
 「なんですか、これ」
 「すまん、諸泉」
聞きたくなるのももっともだろうが、山本としては自分から説明したくない。
 「つまり、彼らが抜ける穴を私達で埋めろと」
 「その通りだ、高坂」
一を聞いて十を知る、忍者として洞察力は大事なのだが、彼とてわかりたくはなかっただろう。
なんというか、「頑張ってくれ」としか言いようがない。
 遠い目をする三人を尻目に、雑渡は子供と戯れている。
 「ああほら、陣内、お土産出して…」
 「組頭っ!なんで私達がこんなことしなきゃならないんですかっ!!」
うきうきした空気を隠そうともしない雑渡に噛みついたのは諸泉だ。
高坂はそれを離れて見ているだけである。
 「高坂」
 「はい」
 「お前は何も言わなくていいのか?」
 「別に…私は組頭がやれと仰ったことをやるまでです」
ふてくされたように言い切る高坂は、どうにも不器用なのだろう。
雑渡に口答えする諸泉も、そんな諸泉を殊更気に入っている雑渡にも、不満なのだ。
今も諸泉が雑渡にものの食い方について文句をこぼしているが、雑渡は楽しそうに聞いている。
高坂は自分の不満を言わずに見ているだけだ。
 「お前は本当に組頭が好きだなぁ」
 「ええ。私だったら組頭がどんなに汚したって完っ璧に洗濯して差し上げるのにっ!!」
後半は小声だったが、忍として優秀な山本の耳は、全ての言葉をがっつりととらえてしまった。
正直聞きたくなかったと内心で少しひきつつ、山本は高坂の肩を励ますように叩いたのだった。





 「えーと、では、調理の方をお願いできますか?」
 「ああ、わかった」
 「本当にやるんですかぁ〜?」
 「いいからさっさと前掛けつけろ」
 ぶーぶー文句をたらす諸泉の頭をこづき、忍たまから料理の説明をしてもらう。
諸泉も不満そうにしながらも真面目に聞いている。
そんな諸泉を横目で見ながら、高坂は内心面白くない。
 (最初っからそうしてればいいんだ)
諸泉は、普段何かと雑渡に意見するくせに、仕事自体は真面目にこなす。
どんな雑用であってもだ。
愚痴を言っても言わなくても仕事をすることにかわりはないのだったら、無駄な口は慎めばいい思うのだが。
 (組頭は、こいつがいちいち文句を言うのが面白くてたまらないんだろうな)
 高坂とて、わかってはいるのだ。自分の不満は単なるやきもちであるということも、諸泉が精一杯仕事をしているということも、山本が自分の心配をしている ということも。
考えているうちに料理の説明が終わり、忍たまは接客にもどっていった。
仮設調理場に残されたのは、高坂と諸泉と、何故か置かれている骨格標本のみ。
鍋の中からはなんとも言えない香りが漂ってくる。
 「高坂先輩…」
 「何だ」
 「これ本当に売って大丈夫なんですかね」
 「考えるな」
ともかく、しばらくは薬膳料理は食べる気になれないなと、2人はため息をついた。


 保健委員会の忍たま2人が食い逃げを追いかけて行った後、土井もドクササコ忍者も菜園の方へと行き、戦いのとばっちりでめちゃくちゃになった幸運食堂に は部外者であるはずの高坂と諸泉が残された。
 「高坂先輩」
 「何だ」
 「あの骸骨、動いてませんか?」
 「気にするな」
多少気になることはあるものの、客も引けたので勝手に店じまいをさせてもらうことにする。
それを見計らったかのように、腹の音が響いた。
 「お前…」
 「わっ私じゃありませんよ!先輩でしょ?」
 「んなわけあるかっ」
腹の音などという細かいことで見栄を張っても仕方がない。
2人とも違うということは、残るは骨格標本というわけで。
 「あーそれにしてもお腹すきましたねー!」
 「しかし薬膳料理は食べる気がしないぞ」
微妙に話と目をそらしつつ、気づかなかったことにして会話を進めることにする。
そんな折、諸泉が差し出したのは、お煎餅型忍者食だった。
あろうことか忍んだ先でいい音をたてて食い、敵に気づかれた原因となったそれである。
 「いっ、今なら忍ぶ必要もないわけですしっ」
分かりやすくイラッとした高坂に、諸泉が弁解する。
先日言い過ぎたという負い目もあって、高坂はお煎餅を口にした。
 「どうですか…?」
 「……うまいな」
というか味もそのままお煎餅なのだが、忍者食だとすればかなり美味い部類になるだろう。
こいつはどこまで煎餅が好きなんだと若干呆れてもいたのだが、諸泉は素直に誉められたと思ったらしい。
 「でしょう!?それでいて栄養もあるんですよっこれ!完璧じゃないですか!?」
 「食うときに音さえ響かなけりゃぁな」
 「ううっ…しかし音がなかったらお煎餅の魅力が半減…」
 「ぬれ煎にしろよ」
 「あれは邪道ですっ!!」
そもそも煎餅の形にする意味すら高坂には理解できないのだが、諸泉にとっては大前提であるらしい。
くだらないことを真剣に悩みだした諸泉を見ていると、いちいちカリカリしていた自分がアホらしくなってくる。
高坂とて、諸泉のことが嫌いなわけではないのだ。
 「まぁ…頑張れよ」
呟いてみれた言葉はしっかり聞かれていたらしい。
嬉しそうに笑う諸泉を軽くこづいて、高坂は中断していた後片付けに取りかかった。



 * * * * * * * * * * 

手抜きにもほどがあるおまけまんが
omake

 * * * * * * * * * * 





…と、いうような内容の無料配布本を、47巻が出た数週間後のイベントに紛れ込ませた私はどんだけ本気で黄昏に食いついたんだと、自分でもちょっと呆れて いる。
どれもこれも黄昏若手がかわいすぎるからいけない。小頭が苦労性っぽい顔してるからいけない。