注意! ジマの俺得設定てんこ盛り!!
それでもバチコーイ!!って人だけ読んでくださいな。
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廊下を歩きながら、部屋の中の気配を探る。
一人、二人。
おそらくは目的の人物とその同室者。あまり会いたくない部類の相手はいないようだ。
自分の安全を確認してから、ゆっくりと戸を叩いて声をかける。
「食満先輩、いらっしゃいますか?」
「おぉ、居るぞ。その声は鉢屋か?」
予想していた通りの声と答え。
だがしかし、中から招く食満の声と同時に戸が開いた瞬間、鉢屋はその場に固まった。
理由は簡単、部屋の中から戸を開けたのが、見も知らぬ男だったからである。
目的の人物である食満留三郎は、いらっしゃい、などといいながら部屋の奥でたけひごをいじっていた。
戸を開けた男は、軽く首をかしげながらこちらを見ている。
ドクタケとは少し違う赤い忍び装束を着て、食満に野性味を二割増ししたような顔をしている。
「食満先輩のご家族の方、ですか?」
「んー?したら楽しいだろうなぁ」
思わず口をついて出た台詞への答えは、それを否定するものだった。
食満に促され、のこのこと部屋に入って座る。
食満が茶を入れて鉢屋の前においた。お茶うけもついている。後輩に甘い食満ならではの心遣いだ。
「ありがとうございます」
「うん?まぁ今回はぶっちゃけ出涸らしだから、そうかしこまるな。与四郎、もう一杯どうだい?」
「いただくべー」
「じゃぁ鉢屋、悪いが今から虫籠を仕上げるから、少し待っていてくれ」
「はい、忙しいところすいません」
「与四郎、構ってやれなくてすまんな」
「オラは別に構わねーよ」
少しだけ適当な会話をして、食満は仕事を開始した。
あとには与四郎と鉢屋の二人が残される。
部屋に入る前に一応の自己紹介はしたが、初対面の相手である。
どうしたものか、まぁ無言でもいいか、と首をかしげる鉢屋だったが、与四郎の方は会話をする気満々であったらしい。
真正面から視線を合わせ、興味を隠そうともせずに話しかけてくる。
「なぁなぁ、オメさん、なしてしんべェと同じ顔してんだ?」
「あぁ、しんべェ君のことは知ってらっしゃるんですね。これは、食満先輩が喜んでくださるかと思いまして。顔も作りやすいですし、私の趣味は変装なので」
「はー、見事なもんだべなー体とのバランス以外は。留はそれで喜ぶんか?」
「さぁ?私は普段、人を驚かすことしかしないので、よくわかりません」
「頬っぺたの張りが甘い。七十五点」
「ダメ出しされたっ!鉢屋三郎地味にショック!」
「厳しいなー、留。嬉しくねぇの?」
「いや、嬉しいが、それとこれとは話が別だ」
時々間を持たせるかのように鉢屋と与四郎の会話に茶々を入れつつも、食満の手は動き続けている。
今作られている虫籠は、竹谷が頼んでいたものだ。
頼んだ本人は、いよいよ駄目になった虫籠から脱走した毒虫の捜索に躍起になっていたので、暇をもて余していた鉢屋が代わりに使いに来たのである。
竹谷はそろそろ出来ているかもしれないと言っていたが、どうやら竹ひごが足りなかったらしい。
古い竹束をバラして竹ひごを作った跡がある。
自室でわざわざそれをやってしまうあたり、かわいい後輩の頼みであることを差し引いても、やはり仕事中毒というべきであろう。
時間がたつにつれ、作業に没頭していく食満の口数は減り、代わりに与四郎と鉢屋だけで会話が進むようになってきた。
「錫高野さんは何故ここに?」
「ちっとんべー時間ができたからよー、喜三太に会いに来たんだけんども、急に演習に行くっつーからよ、しょーがんねーから帰ってくるまで留に遊んでもらお
うと」
「それはそれは、なんだかお邪魔してしまったようですね。申し訳ありません」
「ははっ、謝るこっちゃねーべ。今はオメが相手してくれてんじゃん」
人懐っこく笑いかけられれば、誰であろうと嫌な気持ちはしない。
与四郎の言葉は訛りがきつくて若干わかりづらいが、よく動く表情とその場の雰囲気、前後の言葉を照らし合わせればどうとでもなる。
鉢屋が怪訝な顔をすれば、与四郎が言葉を選んで言い直すので、自然と会話は弾んでいった。
もともと鉢屋は物怖じしない性格であるから、他校の六年に対してもぽんぽんとものを言う。
喜三太の先輩であり、食満が自室でもてなすような相手ならば、ほとんど警戒をする必要もない。
鉢屋が気を付けることは、ただひとつのことだけである。
警戒はしないが気を抜かず、だがしかし相手にはそれと悟られぬように、鉢屋は慎重に言葉を選ぶ。
「喜三太君なら私も何度か遊んだことありますよ」
「へぇー?」
「巨大ナメクジの変装をしたらかなり驚いてくれました」
「ぶはっ、そりゃそうだんべー、んだども喜んだんでねぇ?オラも見てみてぇなぁ」
「ええ、かなり喜んでくれました。実は今日も一年は組で遊ぼうと思っていたので、変装道具ならここに…」
会話を続けながら懐をあさる。
変装名人である鉢屋は常にいくつかの変装セットを持ち歩いている。
さらに、今日は普段行動を共にしている不破雷蔵が所用で居なかったので、退屈しのぎのためのイタズラグッズを取り揃えていた。
肝心の遊び相手である一年も留守だったので、与四郎と同じように肩透かしを食らったわけなのだが、思っていた相手とは違ったとしても、変装を見たいと言わ
れてしまえば見せぬわけにはいかない。
変装とイタズラで人を驚かせるのが趣味の鉢屋ではあるが、それはいきすぎたサービス精神からきているようなものなのである。
用意をしていたナメクジの顔を取り出し、瞬時に装着する。
以前のような着ぐるみ型ではなく、首から上にだけ被る形のものだ。
まさに人面ナメクジ、質感にも凝っている力作なのだが…
「んー?」
「何か変ですか?」
「変っつーか、そりゃーめんめんくじらでねくて、どっちかってーとまいまいつぶりじゃん?」
「はぁ…同じようなものではないんですか?」
「鉢屋、それ、喜三太の前で絶対いうんでねーぞ…?」
「は、はい」
なんだかよくわからないが、すごんで言う与四郎の迫力に思わずうなずく。
「そだ、ちょうど喜三太のつつっこにとってきためんめんくじらがいっからよー、観察できるべ」
「えっ…………是非…!」
「おお…本気の目だーよ…流石だべ。ほれ手ぇだせ」
「え」
ぺちょ。
「………っっっ!」
いきなり掌に無造作に載せられたぬめっとしてぐにょっとした感触に、思わず声にならない悲鳴をあげた鉢屋を誰が責められようか。
与四郎もその反応を予想していたようで、イタズラが成功した子供のような顔をして、すぐにナメクジを取り上げた。
こちらもなかなかいい性格であるが、鉢屋は規格外のでかさであったナメクジの直の感触に動揺していて、それどころではない。
「ははっ、やっぱ気持ちわりーんじゃん?無理しねーで止めるか?」
「そがぁ…っ、」
「そが?」
「そ、そんなことないです。というか、間違った変装を指摘されたままの方が気持ちが悪いので」
動揺からか多少どもりながらも、鉢屋は再び手を出す。
真剣な目が、与四郎の持っているヤマナメクジを渡せと言っている。
鉢屋三郎、変装の天才ではあるが、周囲からは、完璧主義で努力を惜しまないところは美点だが、方向がどこかずれているのが残念だと評価されている所以であ
る。
与四郎はそんな鉢屋に本気で感心したようだったが、鉢屋の口数はその後だんだんと減っていった。
大きな月の下、忍ぶ様子もなく人影が歩く。
それは数個の虫籠を抱えていた。
鉢屋三郎である。
食満の部屋を訪ねたのがそもそも遅かった上、虫籠を作るのに思っていたより時間がかかり、このような刻限になってしまった。
しかしそれも元を正せば、間の悪い時に虫籠の依頼をした竹谷の所為でもあるし、さらに突き詰めればろくな予算を回さない会計委員会の所為とも言える。
竹谷を待たせたことに悪びれることは絶対に無い鉢屋だが、多少急ぎ足で竹谷の居る飼育小屋へと向かう。
もちろん親切心ではなく演出であり、逆に恩に着せるくらいの腹積もりだ。
抱えた虫籠が音をたてる。
鉢屋の表情はどこか浮かなく、しかしながら僅かの安堵がみてとれた。
(さっきのはまずかった)
与四郎の訛りにつられて言葉遣いを崩さないように、十分気を付けていたのに。
与四郎との会話を頭の中で回想しながら歯噛みする。
“そがぁなことあらせんわな”
先ほど口から出そうになった言葉である。
ナメクジに動揺して郷の訛りが出てしまうなど、忍者にあってはならないことだ。
悔しさに歪む顔は、未だしんべェのままである。
しかしいつまでもこうしてもいられない。
頭をひとふりし、顔を撫で、鉢屋はいつもと同じ不破の顔になる。
表情も柔和に、先程までの感情も変化させて完璧に。
さて、早いところ竹谷に虫籠を届け、ついでに八つ当たりでもしようと頭を切り替えた瞬間。
鉢屋の緊張が溶け、わずかな隙が生まれた。
会計委員長の言うところの、油断大敵火がボーボー、である。
「あっ、鉢やん遅ぇよ!どうせまた遊んでたんだろ?早く籠くれ!籠籠!」
「うるせぇっちゃだらずが!!」
不意に横手から馴染んだ相手に声をかけられ、思わず素の調子で叫び返した後、双方に沈黙が落ちる。
虫取り網を数本抱えた竹谷は頬を赤くして嬉しそうに目を輝かせ、逆に、鉢屋は耳を真っ赤にしてなんとも言えない表情で歯を食い縛っている。
竹谷の手から虫取網が転げ落ち、数秒後、夜の闇に竹谷の奇声と鉢屋の怒号とも悲鳴ともつかない叫びが響きわたった。
※ ※ ※
「なんかすんげー叫
びが聞こえたべ…おっほー?」
「それは多分竹谷だ
ろうなぁ。もう一人は鉢屋か。しかし与四郎、お前さん性格悪いなぁ」
「なーにせうだよ。
分かってて止めねーでいたオメーも相当じゃんか」
「まあな。焦る鉢屋
はなかなか珍しくて見ものだった。ありがとう与四郎」
「留は守備範囲ひ
れーなぁ。」
同時刻、六年は組長
屋にある善法寺・食満の部屋ではこんな会話が交わされていたとかなんとか。
○終○
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2010.3.21. のイベントで無料配布(という名を借りた押しつけ行為)で配り散らした小冊子の文章。
無配だし、いつの間にか三カ月以上も経過してるので、UP。
今見ると色々文章変で恥ずかしいけど、修正しだしたらきりがないので放置!