「ねぇ先輩」

男は口を開く。
何でもないことのように、世間話のように、話をする。

「忍者には、正心が必要なんですよね」

目の前の少年は怪訝そうに、それでも律儀に当たり前だと返事を返す。

「でも、忍務のためにはどんな手段もとらなきゃならないことも、あるんですよね」

これもまた、当たり前のことである。
やはり怪訝そうに首をかしげ、そりゃぁそうだがと口ごもる年下の先輩を見つめながら、中年の男は口を動かし続ける。

「では、正心の定義は何処に置けばいいんでしょうね」

少年は一瞬その目を見開き、次に数回まばたきをしてから、ゆっくりと答えを口にした。



「…おれもはっきり言えねぇけど、その時とった行動が、大義のためであるとか、後々多くの人の役に立つとか、そーゆーんじゃねぇのかなぁ?」

いいながらも首をかしげている。どうやらこれは少年の中でもはっきりしていないことであるようだ。
だがしかし、男は続けて質問する。

「そう、なのかなぁ。じゃぁ、命令されてする行動は?」
「んー…、その人の命令ならば、なんだって出来ると、信じるに足る主君を見つければいいんじゃん?」
「じゃぁ、いずれワシらもそういう人を見つけないとですね」

あやふやなまま、それでも男の疑問を無視すまいと答えを返していた少年は、そこではじめてはっきりとした言葉を口にした。


「何言ってんだべ、じんましん。おれらの主君は喜三太じゃんか」


少年は笑う。

一辺のくもりもない顔で。

少年の着物の袖には黒い染みがある。


中年の男は、ひどく悲しげに表情を歪ませ、それを悟られまいと顔を伏せた。

(ねぇ与四郎。ワシは、喜三太がそんなことを命令するようになるなんて、考えられないよ)

それは希望か幻想か

かつて中年の男は目の前の少年に対しても同じ思いを抱いていたのに

「?どうかしたんか」

顔をあげれば、不思議そうに、それでも男の心配をしている少年が目に入る。
それは男がもっと若く、少年がもっと幼かった時と何ら変わらない光景だ。


中年の男はそんなことを考えながら、目を無理矢理笑みの形にし、口を歪ませておどけたように言うのだ。

「忍者になるのって、大変ですよねぇ」
「そりゃおめー、当たり前だべ」

何を今更他人事みてぇに、と少年は笑う。明るく、快活に、愉快そうに。

「でもワシは怖いですよ」

男も笑う。朗らかに、和やかに、決して気づかれないようにして、本音を口にする。



忍というものに、心底怯えながら







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仁之進と与四郎。
大人と子ども。一般人に近い忍たまと忍者に近い忍たま。でも大人と子ども。

…の、つもりで書いていたんだと思う。

ネタ帳から発掘しました。いったいいつのだ…。


こんなの与四郎じゃない!! と声を大にして叫んでみる。
つーかそもそもこんなの風魔じゃない…よ………。
でももったいないからUP。(貧乏性)

ちょっと風魔の神小説書きさんとこのぞいて勉強してきます。