『大きく振りかぶって‘浜田×泉’小説』



『いわゆる本末転倒というところの、』





9組は今日もにぎやかだ。面白半分に田島が三橋につっかかり二人でわあと大騒ぎになる
のを泉がたしなめ、浜田は苦笑しながらそれを見ている。

傍から見ればほほえましいことこの上ない絵面なのだが、泉的には浜田も含めて9組にお
ける野球部員の面倒を一手に引き受けてるわけであり、結構しんどい状態だった。









「お!次体育だぞ体育!三橋ー!!更衣室まで走って競そ」
「田島ぁ!お前今日日直だろうが!ちゃんと黒板消してから行け!」
「………おお!」
「おーじゃねーよまったく…」



どこでも飛んで行きそうな身軽な体を抱きつくようにして捕まえることもしょっちゅうだ。
ちなみに首根っこを掴むのが泉の得意技である。




ばたばたと慌ただしく黒板に向かう後ろ姿を見て、泉ははあ、と深い溜め息をついた。
そんな泉を恨めしそうな表情で見つめる者がいた。振り返ったときに気づく。




「なんだてめー、変な顔でにらむなよ」
「………」


にらむ、とは少し別の表情だったが泉の視線の先、投げ掛けられた浜田はさらに眉間に皺
をよせてむう、と唸った。



「最近よく変な顔してこっち見てんだろ。何なんだよ気持ち悪い」



泉が標準装備で口の悪い奴だと知っているので、暴言の部分はスルーして浜田は答えた。
おずおずと。








「…なんかさー、実は泉って、俺より田島の方が好きだろ」
「は?何?」



唐突な台詞にどう取ったらいいのかわからない。頭に疑問符を乗せる泉に浜田は続ける。



「だってさあ、俺がちょっとでも触ろうとすると泉すっげえ怒って殴るくせに、田島には
すぐ世話やいてしかも抱き着いたり着かれたり、ヘッドロックきめたり」

「お前俺にヘッドロックされたかったの」
「違う!何で田島にはスキンシップ過多なの!ずりい!!」



「…………」




呆れて言葉が出ない。子守に等しいこのハードな手綱役をどうしたらそんな風に見えるん
だこいつ。




「お前アホか。いや知ってたけど。つくづくマジで」

言い捨てて黒板を向くと、三橋に手伝ってもらい田島の日直作業も終わったところだっ
た。


「泉!浜田お待たせー!更衣室行こーぜ!!」



傍目にもうずうずとしたその様子に、泉はハイハイと苦笑して教室を出る。
向こうから教師が歩いてくるのが見えるにも関わらず走り出そうとする田島の頭をひっぱ
たくと、背後からまたむう、と呻き声が。




「おい浜田いい加減にしろよ!明らかにこれ子守りだろうが!!てめーまでさらに俺に
手ぇ焼かせるような真似したらキレんぞ!!」



振り向いて一喝すると、だってーと言わんばかりのいじけた視線が返ってきた。
本気で呆れ果てもう知らんと無視を決め込もうとしたところ、浜田が小さくわかった、と
呟くのが耳に届いた。



「は? なに」
「わかった」


浜田ははっきりした口調で繰り返した。



「不本意だろうと泉が田島にばっか構うんなら、俺にも考えがある!」


それだけ言うと泉の横をすり抜け、田島行くぞ!と廊下を走り始める。すれ違いざま教師
に怒鳴られる。

何やら浜田の決意に満ちた背中に、何だあ?と泉は首を捻りつつ、あっけにとられている
三橋の背中を押して自分も更衣室に向かった。








最初は何のことかわからなかった泉だが、数日もすると浜田の「考え」というものが明ら
かになってきた。





「三橋ー泉ー浜田!!昼飯7組に食べに行こーぜ!!」
「こらぁ田島!その前に机の上片付けていけ!!」




「昨日にーちゃんの部屋漁ってたらすっげーAV見つけちゃってさー。夕べはそれムぐ」
「お前声でかいちったぁ控えろ」




「いたいいたいいたい!!ワリーって浜田ごめんもう教科書に落書きとかしないからギブ
ギブギ」
「その台詞は花井に言えー!もとの文の判別つかねえぞこれ!!」








「…なんか、最近、ハマちゃん田島君と、仲、いいね」

「あ、三橋にもわかる?」








浜田の宣言から一週間ほどたったある日の昼。四人で机を囲んでいたらふと、三橋が
呟いた。


「うん、なんか、いっぱい構ってる気が、する」

菓子パンにかじりつく合間に答える。



「だよなー。おかげで俺の苦労が軽減されていいわこれ」

泉は吐き出すようにそう言うと、パックの牛乳をすすった。





そう。あの宣言以来、浜田は田島や三橋、主に田島の暴走時に泉より先に粛正にあた
ることを繰り返していた。ようは、泉が自分より田島の方を構う事態を避けるためだ。

全く普段から老体だもう歳だと愚痴る体にムチ打ってご苦労なことである。おかげさまで
泉の方はここ数日、疲労が軽減してか体調がいい。



いや全く、こりゃいいわ。
泉はもう一度口にしたが、それを見た三橋はパンから顔を離しこう言い放った。






「でも、ちょっと寂しい、でしょ?泉君」

「!」

爆弾投下。


思わぬ一言が思わぬところから来た。
まともに驚いた泉は顔をを赤らめ、あーとかうーとか言った後、何やら言い合う
浜田と田島に聞こえないようにこっそりと、少しだけな。と答えた。
労るような笑顔が返ってきた。






三橋にもわからないようにこっそりと、泉はため息をついた。


全く三橋にすらわかるというのにあいつは何をやってるんだ何を。もともとスキンシップ
を取りたかった相手を放って田島にばかり構っていては本末転倒だろうが。

しかしあの馬鹿のことだ。その事実に気付くまでにはまだまだかかるのだろう。

泉はちらりと浜田に目をやり、もう一つため息ついてメロンパンにかぶりついた。


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相互しております大学オタ仲間のジマ嬢から頂いた5656リクの
「泉ちゃんと田島様の仲を妬く浜田」です。

えーと、気付いたら最後には泉の方がやきもち妬いてたという事実はヌルーの方向で。
ひたすら4ヶ月近くお待たせしたことをお詫びいたしますむしろ待ってなかった?そう。
9組書くの楽しかったですありがとう!!!

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と、いうわけで、相互しております大学オタ仲間の夕凪嬢から頂いた5656リクです。
『大きく振りかぶって』で「泉ちゃんと田島様の仲を妬く浜田」
泉ちゃん可愛いとか浜田が馬鹿とか三橋スルドイとか田島様格好イイとかよりもむしろ、
名前だけ出てきた花井に悶えました。タジハナ万歳!!

うん、この出来栄え!良いね!良いね!!甘酸っぱいね!!!
文化祭で顔あわせるたびに「まだかまだかはやく書け」といった甲斐があったと言うものです(ジマ最低)
リク受け付けてくれて有難うよ!!!また書かせたいよ!!!
まぁとにかく、感謝です!!!