影追い
555HIT リク、コト様に捧げさせていただきます。

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今でもときどき夢を見る








囁かれる悪意
投げられる石
突き刺さる視線
浴びせられる罵声
閉ざされる扉






燃えてゆく家族











脳髄に焼き付いて離れない記憶















《無能な奴は死ね》

《己以外は屑だと思え》








その考えに縋らないと生きていられなかった







悪意も石も視線も罵声も


家族すらも






アイツ等は屑だ
屑でしかない
屑が叫ぼうが知ったことか
屑が嘆こうが知ったことか


屑がいくら死のうが





己にはなんら関係ない























ざわざわと、屑が騒く。
ばたばたと、屑が動く。



喧しいことこの上ない。



「ミヤギくーんっ!ここ空いてるっちゃー!!」
「おー!でかしたべトットリー!」
一際耳に響く叫び声。煩わしいことこの上ない二人組が隣の席に着いた。
「ここ、座るっちゃよ」 座ってから言うな
「まぁた一人で飯食ってんだべかー?」 人の勝手だ
「社会適応能力に欠ける奴だっちゃ」 お前らに言われたくはない
「友達つくる努力もしねぇん だべ」 余計なお世話だ
「なぁアラシヤマー」
「やかましいどす!屑が話しかけんといておくれやす!!」









コイツらを見ているとイライラする












「「ありがとうございましたー」」
演習が終わり、皆が帰り支度を始める。

ざわざわと、ばたばたと、笑いながら。


煩い。
イライラする
屑のくせに。
ムカムカする
屑のくせに。
響く足音、一段と大きくなる笑い声。
煩い煩い煩いっ!
イライラするイライラするイライラする
「アラシヤマ、何処へ行くんじゃ?」
「教室どすっ」
怒りも露にそう言って、一人で逆方向へと歩きだした。















誰もいない廊下は静かで心が落ち着いた。
人の騒ぎ声も遠くへ去り、気配の消えた校舎は静寂に支配されている。
革靴を履いているので自分の足音が辺りに反響 するがしかしそれが逆に気持ち好い。

コツ、コツ、コツ、
                            ーコツ、コツ、コツ

人が居なくなるだけでこれほどまでに音が響く。


ー………

ふいに人の気配を感じ脚を止め窓の外を見る。
眼下の昇降口付近を中身の軽そうなひよこ頭がうろついていた。
珍しく片割れが一緒にいないようだ。
ベストフ レンドとやらを探しているのかあちらへウロウロ、こちらへウロウロとしながら校舎へ入ってくる。
しかし校舎内に自分以外の人の気配が無いことは明白で。

無駄足だ・と考え、



少しだけ、いいきみだ・と思う。











それはきっと、単なる嫉妬心

















本当は、わかっている。
自分はアイツ等が羨ましいのだ。
いつもどんなときも一緒にいて、
ベストフレンドと呼び合い、
お互いを信用し合う彼らが。

本当は、わかっている。
彼らは屑などではないことを。
彼らは普通の人間だ。
殺人屋集団士官学校に通っていようと、普通の人間なのだ。


















本当に屑なのは、己自身。









炎を発し、人を傷つけ、家族を焼いて。
アイツらは屑だと、だから気にすることはないと、
そう無理矢理信じ込んで生活しながら己を守り、
人を屑としか見ようとしない自身こそが屑なのだ。























「どげしたんだらぁか?そがいな顔して」
びくり、と体が動く。
いきなり横合いから声をかけられた。


こんな
こんなことは
こんなことはありえないはずだ

自分が校舎へ入るとき、
自分が廊下を歩くとき、
自分が足音を響かせているときに何度も気配を確かめ た。

誰もいないと、
誰もいないと確信したからこそ あのように落ち着いていられたし
誰もいないと確信したからこそ このように考えに耽っていたのに。


ひしひしとはっきり目の前に感じとれる気配。
だが、発せられた声に感情は無くどこまでも無機質で。

「居らはりましたんどすか、忍者はんー」
なぜか震えそうになる声を整えながら首をめぐらせる。

「さすが忍者やわぁ。気配、感じまへんでしたえ?」
「そがい におだてても何もでないっちゃよ」

薄く笑う忍者の眼を見、動けなくなった。
















なんだ、これは。














いつもへらへら笑いながら片割れに使われているあの能天気な忍 者の眼ではない。



人好きのする態度で周りに溶け込み決して目立つことのないあの朗らかな忍者の眼ではない。


















これは、己以外を屑だと思っている人間のする眼だ。
















「あんさんー………、」






「やぁっと見つけたべトットリィー!!」
「ミヤギくん!?どげしんさった!?」

廊下の端から飛んできた言葉に、瞬時にぱ・と雰囲気がかわる。

もう其処には人を見下すどころか見てさえいない忍者は居らず、
いつもの間抜けなおよそ忍者 らしくない忍者がいるだけだ。


「オメ、オラにノート貸すって約束してたべ!?まさか忘れてたんじゃねぇべな!?」
「わ、忘れてないっちゃよ!!だけぇノート取りにきたんだっちゃ!」
「ほんとけ?ま、ならいーべ!早くけえるべや!」
「だっちゃ!」

駆けていく彼らを茫然としながら見送る。












忍者は始終笑顔だった。






















しかし、断言できる。








あの忍者は人を屑だとしか見ていない。



見下すどころか眼中に無く、そこらに散らばるゴミと考えている。



















なのに










何故アイツはああも周りに溶け込んでいる?



何故アイツはああも楽しげに笑っている?



















自分はこうも周りから浮いているというのに。
















自分はこうも辛く苦しんでいるというのに。






















ーアイツだって、屑のくせに!!!




















何故ああも幸せそうに暮らしていられるんだ!!!!!




























今度こそ誰もいなくなった廊下。落ち着くどころか虚しさがこみあげる。












アイツが、大嫌いだ。





あの忍者が、大嫌いだ。

















どろどろとした闇に染まっているくせに光の下で幸せそうに笑うアイツが大嫌いだ。
























夕日の射してくる窓の下、忍者が走っていく姿が見えた。

校舎のなかでは影が色味を増してくる。







やがては自分をも包み込むだろうこの影に、アイツを道連れにしてやろう。


かたくかたく心に決めた。

















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555HIT、ありがとうございました!!!
リク内容は「月と犬」の後アラシヤマとトットリ、ということで書か せ て頂きましたがどうでしょうか?月と犬に時期設定していなかったんですがたぶんあれはトットリがミヤギに出会って暫くたってからです。(アラシヤマが入学 してすぐ一年間の謹慎処分にあっている間…)
 調子こいてアラシヤマ過去まで捏造してしまいました…(反省)。
 予想以上にアラシヤマが出張ってしまってトットリ の出番が少な い・・・というかなんというか。

 たぶんコレがウチのサイトのアラシヤマがトットリに意識を向けた きっかけです・ね・・・。めちゃめちゃ敵意を燃やしておりますが。

 アラシヤマがあの一年の謹慎処分をくらってから外に出てきた頃に はもうトットリはミヤギくん一筋で、でも自身に黒いところを持っているアラシヤマはトッ トリの黒さに気付いてしまった・と。自分は微妙な罪悪感やなにやらで辛いのにトットリはミヤギと一緒に笑っているのを見て悔しいというかなんというか。た ぶんここから愛憎渦巻く泥沼アラトリモードに突入します管理人脳内。同属嫌悪≠愛情。トットリはトットリでどこか自分と似通ったものを持っているアラシヤ マに何か思うところがあるんでしょう。
 アラシヤマはトットリを暗いところに引きずり込む気満々ですが実 際はトットリ>アラシヤマでトットリの方が黒いんじゃなかろうかと思います。

ともかく、気に入ってくださるとうれしいです。